新潟県で起きた、部長級管理職の女性が懇親会で「ミャクミャク」に扮し、部下の男性職員に対してセクハラ行為を行ったとして訓戒処分を受けたというニュースは、多くの人に驚きをもって受け止められました。大阪・関西万博の公式キャラクターを模した余興の一環だったとはいえ、男性職員に鈴やひもを腹部に付けさせ、他の参加者がその下腹部を「神社のように拝む」という行為は、明らかに性的な意味合いを帯びています。
県は「性的な意味合いを想起させる小道具を用いた余興に職員を参加させ、不快にさせた」と説明していますが、これは典型的なセクシュアルハラスメントの構造を示しています。
今回の件が特に注目を集めた理由のひとつは、加害者が女性で被害者が男性だった点です。一般的にセクハラは「男性から女性へ」というイメージが強く、被害者が男性の場合は軽視されがちです。しかし、性別に関係なく、性的な言動によって相手を不快にさせたり、職場環境を悪化させたりする行為はすべてセクハラに該当します。性別の組み合わせは本質ではありません。
セクハラの定義
厚生労働省はセクシュアルハラスメントを「職場において行われる性的な言動により、労働者の就業環境が害されること」と定義しています。
「悪ふざけのつもりだった」「場を盛り上げようとしただけ」という言い訳は、セクハラの議論では通用しません。今回のケースでも、余興という名目であっても、性的な意味を含む行為を強制し、本人が不快に感じた時点でセクハラが成立します。
また、セクハラには大きく分けて2種類あります。

今回のケースは環境型セクハラに該当します。懇親会は職務の延長線上にあり、管理職が主導する場であればなおさら、部下は断りづらい状況に置かれます。権力関係がある場での「余興」は、しばしば強制力を帯びてしまうのです。
セクハラ加害者が「普段は問題がなかった」では済まされない理由
県は女性管理職について「普段の勤務態度に問題はなかった」と説明しています。しかし、ハラスメントは“普段の態度”とは別の次元で起こります。むしろ、普段は温厚で人当たりの良い人が、飲み会や懇親会の場で突然ハラスメント行為に及ぶケースは珍しくありません。
背景には、以下のような構造が存在します。
- 飲酒による判断力の低下
- 「宴会だから許される」という誤った慣習
- 管理職による権力性
- 余興文化に潜む“強制参加”の空気
特に日本の組織文化には、飲み会や懇親会での「余興」や「出し物」が半ば伝統のように残っている職場もあります。しかし、時代は変わりました。職場の延長線上にある場で、性的な要素を含む行為を強制することは、明確にハラスメントです。
セクハラが「常習的かどうか」は本質ではない
県は「これらの余興が常習的に行われていたかは確認できていない」としています。しかし、ハラスメントは一度でも起きれば問題です。常習性の有無は処分の重さに影響することはあっても、行為そのものの不適切さを軽減する理由にはなりません。
もし相談しづらい雰囲気があったなら、今回の件は氷山の一角である可能性もあります。
組織内の相談窓口だけでは限界がある
県は今回の問題を受けて「庁内でハラスメント防止の注意喚起を行い、研修内容を強化する」としています。もちろん、研修や啓発は重要です。しかし、組織内の取り組みだけでは限界があります。
なぜなら、ハラスメントの相談は、組織内部ではしにくい構造があるからです。
社内の窓口に相談するには、以下のような心配事があります。
・加害者が管理職である
・人事評価に影響するのではという不安
・「告げ口した」と思われる恐れ
・組織文化としてハラスメントが軽視されている可能性

こうした要因があると、被害者は声を上げづらくなります。今回のケースでも、加害者は部長級の管理職でした。被害者が直接訴えるには、相当の勇気が必要だったはずです。
外部相談窓口の存在が、組織を健全にする
だからこそ、組織には外部の相談窓口が不可欠です。外部窓口には以下のような利点があります。
組織の利害関係から独立している
匿名で相談できる
専門家が対応するため、適切な判断が期待できる
被害者が心理的に安心して話せる
外部窓口があることで、被害者は「もしもの時の逃げ道」を確保できます。これは単に被害者のためだけでなく、組織にとってもメリットがあります。早期に問題を把握し、適切に対処できれば、組織の信頼失墜や訴訟リスクを避けることができるからです。
また、外部窓口が機能している組織は、従業員に対して「ハラスメントを許さない」という強いメッセージを発信できます。これは組織文化の健全化に直結します。
今回の新潟県の事例は、ハラスメントが性別や立場に関係なく起こりうること、そして懇親会などの“職場の延長線上”で発生しやすいことを改めて示しました。 ハラスメント対策は、単に研修を行うだけでは不十分です。
必要なのは、
- 明確なルール
- 公正な処分
- 内部・外部の相談窓口
- 管理職の意識改革
- 「余興文化」などの慣習の見直し
これらを組み合わせ、組織全体で「ハラスメントを許さない文化」を育てていくことです。
そしてその第一歩は、被害者が安心して声を上げられる環境づくりです。外部相談窓口は、そのための最も重要な仕組みのひとつです。
今回のニュースをきっかけに、組織が本気でハラスメント対策に取り組むことを期待したいと思います。
(参考:日刊スポーツhttps://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202604030000180.html 明るい職場応援団:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/)