厚生労働省は、2026年10月1日からすべての企業に対し、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策を義務化する方針を示しました。これにより事業主は、従業員を守るために十分な防止措置を講じることが求められます。
カスハラとは、顧客が従業員に対して行う著しい迷惑行為を指し、職場の秩序や就業環境を大きく損なう原因となります。中には、反社会的勢力との関係をほのめかし、最終的に金銭を要求する悪質なケースも見られます。
こうした被害を未然に防ぐためには、カスハラ対策を進めるだけでなく、不当要求と正当なクレームの違いを理解し、さらに暴力団対策法(暴対法)に関する基礎知識を身につけておくことが重要です。
反社会的勢力とは?
政府が示す「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」によると、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」とあります。

反社会的勢力からの不当要求
警察庁が実施した「企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート」によると、過去5年間で反社会的勢力から不当な要求を受けた企業は全体の1.7%(40社)に上ることが判明しました。
そのうちの約60%は、年に1回以上の頻度で要求を受けていると回答しています。
不当要求の手口としては、「直接の接触」や「因縁を付けて金品や値引きを求める行為」が最も多く報告されました。
さらに、過去5年間で応じた金額の総額が「1,000万円以上」に達する企業もあり、その深刻さがうかがえます。
(令和5年9月から10月に全国の企業10,000社を対象として、反社会的勢力による不当要求の有無やその内容、「指針」に基づいた反社会的勢力との関係遮断の取り組み状況等についてのアンケート調査。調査票の回収数は2,329通 回収率23.3%)
また、アンケートに回答した2,329社に対し、政府が示す「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」への対応状況を尋ねたところ、「指針に沿って取り組んでいる」と回答した企業は37.9%(882社)にとどまり、「取り組んでいない」とした企業は10.3%(241社)という結果でした。
参考:警察庁「企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート」https://www.npa.go.jp/bureau/sosikihanzai/kigyou-cyousa.pdf
反社会的勢力は、形態が多様化しています。
構成員の数は減少傾向にあるものの、地下化が進んでいると言われており組織実態がつかめにくい状況です。加えて、資金獲得の手口も一段と巧妙化していると指摘されています。

参考:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」
企業や店舗で働く従業員をターゲットに、いわゆるカスハラと呼ばれる不当要求の事例が増加しています。こうした行為は、恐怖心による強いストレスを引き起こし、従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼします。結果として企業の業績にも悪影響を与える可能性が高く、将来的にはステークホルダーへと被害が広がるリスクも懸念されます。
暴対法とは?
正式名称は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」で、1992年3月1日に施行されました。この法律は、暴力団員による不当な行為を規制し、暴力団間の対立抗争によって市民生活が脅かされることを防止することを目的としています。
暴力団対策法(暴対法)第9条では、暴力団員に対して27項目の禁止行為が定められています。
さらに、指定暴力団員や準構成員など、指定暴力団と一定の関係を有する者についても、同様に以下の行為を行うことが禁止されています。

参考:https://www.police.pref.kanagawa.jp/kurashi/soshiki_hanzai/mesc8010.html
●不当要求と対応方法
適切なクレームとは、商品やシステムに対して改善を求める正当な指摘を指します。こうした声は新たな商品開発のきっかけとなることも多く、企業にとっては価値ある情報源です。接客や取引先との関係においても、より良いサービスを提供するための改善要求として重要な役割を果たします。
いっぽうで、不当要求は「顧客」を装った者による著しい迷惑行為を意味します。過剰な要求や根拠のない言いがかりなど、悪質性の高いクレームであり、最終的に金銭を要求されるケースも見られます。とりわけ反社会的勢力による悪質クレーマーは、執拗に要求を繰り返す点が特徴です。

参考:警視庁https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/sodan/madoguchi/wide/taio.html
カスハラに特化した相談窓口のメリット
近年、サービス業を中心にカスタマーハラスメント(カスハラ)は深刻な社会問題として注目されています。しかし、悪質なクレーム対応に特化した体制を整えている企業はまだ多くありません。さらに、相手が反社会的勢力に該当するかどうかを判断することは非常に難しいのが現状です。
こうした背景から、企業には専門家との連携を進めることが求められています。
労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命・身体などの安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をしなければならない」と定められており、これがいわゆる「安全配慮義務」です。
この義務に基づき、企業は従業員が安心して働ける職場環境を整備する責任があります。
まとめ
近年、メンタルヘルス不調を訴える従業員は増加傾向にあり、とりわけカスハラによる精神的負担への配慮が強く求められています。従業員を守るためには、安全配慮義務の観点からも、カスハラ対応を外部の専門家に委託することが非常に有効です。特に、相手が反社会的勢力である可能性がある場合、企業内部だけで対応することは極めて危険です。
また、企業が安全配慮義務を怠った場合、従業員に対して損害賠償責任を負う可能性があります。さらに、マスコミによる報道などを通じてブランドイメージが損なわれるなど、企業にとって多方面のリスクが生じます。加えて、企業の取締役には、会社の事業を適切に維持・運営するための善管注意義務が課されています。社会通念上求められる注意を払い、責任ある姿勢で職務を遂行することが求められます。