2026年1月、福井県は杉本達治前知事による職員へのセクハラ問題について、特別調査委員会の報告書を公表しました。調査では、性的なメッセージが約1000件に及び、その内容も「一切内緒で、墓場まで持っていってね」「おうちはどの辺り?」「いくら口説いても会ってくれないけど、ずーっと、ずーっと、追っかけをするからね」などが確認されています。また、身体的接触を伴う行為も複数認定されました。
「触っていい?」「ずっと追いかけるからね」といった発言や、飲食店で太ももを触る、背後からスカートの中に手を入れるなどの行為が確認され、不同意わいせつ罪に抵触する可能性まで指摘されています。
さらに問題だったのは、被害を相談した職員の声が組織内で握りつぶされていたことです。上司が半信半疑で受け止め、人事課に報告しなかったこと、ハラスメント担当部署にも情報が届かなかったことが明らかになり、調査委員会は「通報しにくい組織風土」を指摘しました。
この事件は、単なる個人の逸脱行為ではなく、組織の構造的な問題を浮き彫りにしたと言えます。
事件が示した「権力と沈黙」の構造
福井県前知事のケースでは、加害者が組織のトップであったことが、被害の長期化と深刻化を招きました。
調査報告書によれば、被害者は複数回にわたり不適切な誘いを受け、断りきれずに飲食の場に同行したケースもあったようです。
権力を持つ立場の人間が加害者となった場合、被害者は次のような心理的圧力を受けます。
・断ったら評価に響くのではないか
・異動や配置転換などの不利益があるのでは?
・「大げさだ」と言われるだけかもしれない
・組織が守ってくれないかも
実際、福井県庁では上司が相談を受けても真剣に取り合わず、組織としての対応が機能しませんでした。
これは、被害者が声を上げられない構造が組織に内在していたことを意味します。
最近のセクハラの傾向~なぜ今も減らないのか
近年の調査や報道を踏まえると、セクハラにはいくつかの顕著な傾向があります。
① デジタル化による「証拠の残るセクハラ」の増加
福井県前知事のケースでも、LINEやメールなど約1000件のメッセージが証拠として残っていました。
近年、SNSやチャットツールを通じた性的なメッセージ送信が増えており、被害者が後から「これはハラスメントだった」と気づくケースも多いです。
新聞労連の調査でも、女性の57.7%が「その場では被害と認識できなかった」と回答しています。
これは、セクハラが「冗談」「コミュニケーション」と偽装されやすいことを示しています。
② 上下関係の強い場での被害が多い
厚労省の調査では、セクハラ加害者の51.1%が上司であるというデータがあります。
権力構造がある場では、被害者が拒否しづらく、加害者が「嫌がっていない」と誤解するケースが多いです。
福井県庁のケースもまさにこの構造であり、組織文化が被害を助長しました。
③ 社外の立場を利用したセクハラも増加
新聞労連の調査では、社外の人からの性加害経験が26.6%に上り、特に女性記者・営業職では7割以上が被害を経験しています。
取材先や取引先など、立場の優位性を利用したセクハラが多発しているのです。
④被害の潜在化が依然として深刻
厚労省の調査では、企業の8割が相談窓口を設置しているにもかかわらず、実際に相談するのは被害者の約4%に過ぎません。
つまり、96%の被害が表面化していないということです。
その理由としては、
・相談しても改善されないと思っている
・組織内で噂が広まるのが怖い
・加害者が上司・幹部である
・自分が悪いのではと感じてしまう
などが考えられます。
セクハラは「個人の問題」ではなく「組織のリスク」
セクハラを含めたハラスメントは、被害者の尊厳を傷つけるだけでなく、組織にも深刻な影響を与えます。
ハラスメントが与える企業へのリスク
| リスク項目 | 概要 | 表面的なダメージ (短期・目に見えやすい) | 本質的なダメージ (長期・経営を揺るがす) |
| 信頼の失墜 | 不祥事が公表され、企業や自治体のブランドが損なわれる。 | ・SNSでの炎上、報道 ・謝罪、クレーム対応の発生 | ・顧客や取引先からの契約解除 ・ESG評価下落による資金調達難 ・行政サービスの協力拒否 |
| 人材流出 | 安全に働けない職場からは、優秀な人材が離れていく。 | ・被害者や周囲の社員の退職 ・突発的な欠員の発生 | ・優秀な層からの無言の離職 ・採用コストの暴騰、応募者ゼロ ・人手不足による連鎖退職 |
| 意思決定の歪み | ハラスメントが横行する組織では、健全な議論が失われ、重大な判断ミスにつながる | ・会議での発言や提案の減少 ・上司への忖度の横行 | ・心理的安全性の喪失による隠蔽 ・問題の放置による巨大不祥事化 ・前例踏襲によるイノベーション枯渇 |
福井県庁のケースでは、組織のガバナンスが機能していなかったことが明らかになり、県議会は特別職も対象としたハラスメント防止条例を可決する事態にまで発展しました。
なぜ外部相談窓口が必要なのか
福井県庁のように、組織内の相談ルートが機能しないケースは少なくありません。
そのため、外部相談窓口の存在が組織の安全弁として不可欠となります。
外部相談窓口のメリット
① 匿名性と中立性が確保される 外部相談窓口であれば、相談者は組織内の人間関係を気にせず相談できる。
加害者が幹部や上司であっても、外部相談窓口は忖度せずに対応できます。
② 組織の力関係に左右されない
内部窓口では加害者の地位が高いほど対応が難しくなるという指摘もあります。
③ 組織のガバナンス強化につながる
外部窓口の存在は、組織に対して「監視の目」をもたらします。
これにより、内部の隠蔽体質や不適切な対応が抑制され、健全な組織運営が促されることでしょう。
声を上げられる社会をつくるために

福井県前知事のセクハラ事件は、個人の逸脱行為ではなく、組織の構造的な問題が被害を長期化させた典型例です。
そして、同じ構造は多くの企業・自治体に潜んでいます。
セクハラは、被害者の尊厳を奪い、組織の信頼を損ない、社会全体の健全性を脅かします。
だからこそ、被害者が安心して声を上げられる仕組みが必要です。
その鍵となるのが、外部相談窓口の整備と活用です。
外部相談窓口は、被害者を守るだけでなく、組織を守り、社会を守るための「安全装置」なのです。
(参考:時事通信ニュースhttps://sp.m.jiji.com/article/show/3686056新聞労連https://shimbunroren.or.jp/media-sexual-harassment-report/株式会社ハートセラピーhttps://heart-t.co.jp/column/p566/労働政策研究・研修機構https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2025/special/pdf/069.pdf読売新聞オンラインhttps://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20260318-GYO1T00200/)