「ワークライフバランスという言葉を捨てます!」
2025年10月、自民党総裁選での勝利を受けて高市早苗首相が行ったスピーチは、大きな注目を集めました。
なかでも「働いて働いて働いて働いて働いて参ります」という、5回にわたって繰り返された言葉には、国のトップとしての並々ならぬ覚悟がうかがえました。
当時、この発言はSNSを中心に賛否両論を呼びましたが、ポジティブに評価する声も多くありました。私たち自身も、これからの時代においてワークライフバランスをどう捉えていくべきか、改めて考える時期にきています。
ワークライフバランス──抱える課題とは
ワークライフバランスとは、国民一人ひとりが、「やりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」を目指すものです。
(参考:内閣府ホームページwwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html)
しかし、働きやすさを重視しすぎると、キャリアアップの機会や仕事への意欲を損なう可能性もあります。ワークライフバランスの運用においては、いくつかの課題が残っていると言えるでしょう。
ワークライフバランスの問題点
① 競争力の低下を招く
単に労働時間を短縮するだけでは、従来の業務量をこなすことが難しくなり、生産性の低下につながる恐れがあります。その結果、サービス残業や持ち帰り残業が日常的に発生し、従業員の仕事への意欲が損なわれる可能性もあります。さらに、専門的なスキルを習得する機会を逃すことにもなり、最終的には企業全体の競争力低下を招く要因となります。
② 社員間の不公平感が生じる
育児・介護休業など特定の制度を利用する従業員と、その業務を引き継ぐ従業員との間で負担の偏りが生まれ、不公平感が生じることがあります。また、テレワークと比較すると、出社する従業員には通勤時間やオフィス環境の維持といった雑務が発生しやすく、負担が集中しがちです。本来、ワークライフバランスは誰かだけに負担がかからず、みんなで自然に助け合える職場を目指すものですが、現状ではまだ課題が残っているようです。
③ 給与の減少が発生する
働きやすさを重視すると労働時間が減少する傾向があり、特に残業が多かった人ほど収入の減少が避けられません。収入が減ることで個人消費が落ち込み、その影響が積み重なると、日本経済全体の停滞につながる可能性があります。
働き方改革の次の課題
2025年10月、高市首相は、働き方改革で定められている時間外労働の上限(原則:月45時間・年360時間)の見直しを含む「労働時間規制の緩和」に向けた検討を指示しました。
しかし、2026年の通常国会への法案提出は見送られることになりました。とはいえ議論が止まったわけではなく、現在も検討は続いています。緩和だけでなく、逆に規制を強化する案も並行して議論されており、内容は慎重に調整されている段階です。現時点では、2027年に法案が提出される可能性が高く、その後、段階的に施行されていく見通しとされています。
「労働時間規制の緩和」に向けた検討の背景には、どんなことがあったのか
- 日本の国際競争力の低下(グローバルな競争力を取り戻したい)
日本の競争力が低いと評価される理由には複数の要因が考えられます。
かつては高品質で高機能なMaide in Japanを誇りましたが、現在では新興国が技術力を向上させシェアを拡大しています。加えて日本は、専門的なスキルを持つIT人材の不足で、デジタル対応も遅れをとっています。
決定までに時間がかかりスピードを重視する海外企業に対応できていない、市場の拡大を牽引するグローバルリーダーの不足なども国際競争力低下の理由としてあげられます。 世界競争力ランキングでは、日本は1989年から1992年にかけて4年連続で首位を維持していました。しかし1997年に17位へと急落して以降、順位は回復せず低迷が続いています。2025年度の日本の順位は、対象69カ国中35位となっています。
世界競争力ランキングにおいて、1989年から1992年まで4年連続で日本は首位を獲得していました。しかし、1997年に17位に急落して以降低迷は続いています。
2025年度のランキングは69カ国中35位です。

出典:IMD「世界競争力ランキング」imd.org/news/imd
- 人手不足の深刻化
働き方改革は、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目的としていますが、その一方で個々の労働時間は短縮されます。業務量が変わらないまま制度だけが導入されると、減った労働時間を補う追加人員が必要となり、その結果として人手不足が顕在化します。さらに、企業が求める特定スキルに対して労働市場の供給が追いつかない場合も、人手不足を深刻化させる要因となります。こうした状況の中で長時間労働規制が導入されると、人手不足がさらに悪化する可能性があります。
働き方改革は長時間労働の是正や、多様な働き方の実現を目指すものですが、個々の労働時間が短縮されます。業務量に変更がないまま実施されてしまうと、短縮された分を補う人材が必要となり、その結果、人手不足が表面化します。企業が求める特定のスキルに対して、供給が追いつかないといったケースも人手不足が加速する要因です。働き方改革による長時間労働規制の導入は、状況をいっそう悪化させる可能性があります。
- 働きたい人が力を発揮できる環境づくりが求められている
収入を増やしたい、キャリアを積みたい、仕事にやりがいを感じているなどの理由から、より多く働くことを望む労働者は少なくありません。
希望する人は残業時間を延ばすという選択が可能になれば、柔軟な働き方の拡大によって収入増も期待できます。
さらに、業務の幅が広がることで高度な専門性を身につける機会が増え、企業側にとっても生産性向上や競争力強化につながります。日本の経済成長を支えるためにも、働く意欲のある人がその力を発揮できる環境づくりが求められます。
まとめ
ワークライフバランスとは、仕事と私生活の調和を図るという考え方です。ただし、それは単に働く時間(ワーク)を減らし、生活の時間(ライフ)を増やすことだけを意味するわけではありません。理想的なバランスや価値観は人それぞれ異なります。その中で、「働きたい人が働ける」という選択肢があってもよいはずです。
日本では生産年齢人口が減少し続けており、2065年には総人口が9,000万人を下回り、生産年齢人口は約4,500万人になると見込まれています。深刻化する人手不足に対応するためにも、労働時間に関する規制の見直しが求められています。さらに、日本が国際競争力を取り戻すためにも、働く意欲のある人がその力を発揮できる環境づくりが一層重要になっています。