宮口幸治氏の著書『ケーキの切れない非行少年たち』では、子どもの認知機能の課題と非行との深い関係性が問題提起されています。
実際、子どもの性被害・性加害の支援現場においても、境界知能や軽度知的障害、発達特性などを抱える子どもたちが支援対象となるケースが数多く報告されています。このような背景から、画一的な指導ではなく、子ども一人ひとりの特性に応じた性教育や適切な支援のあり方が強く求められています。

■ なぜ「認知機能の課題」が問題になるのか?
「認知機能」とは、五感を通して受け取った情報を頭の中で処理し、行動へと結びつける脳の働きのことです。ここに偏りや発達上の不均衡(課題)があると、以下のような「生きづらさ」や日常のトラ
「見え方・捉え方」の歪み 例:視覚情報や他者の反応をうまく認識できず、間違って解釈してしまう(「ケーキを等分に切れない」「相手の不快な表情を『冗談』と読み違える」など)。
コミュニケーションや学習の難しさ 例:複雑な指示を一度に覚えられない、言葉の裏にある「場の空気」が読めない、自分の気持ちや状況を言葉で説明できない。
行動制御(感情ブレーキ)の難しさ 例:衝動を抑えるブレーキが利きにくい、目先の欲求に負けてしまう、悪気がないまま不適切な行動をとってしまう。
『ケーキの切れない非行少年たち』でも指摘されている通り、こうした認知機能の課題は単なる「努力不足」や「性格の問題」ではなく、「脳の情報処理の特性」によるものです。 だからこそ、周囲がその特性を正しく理解し、個別に合わせたアプローチを行うことが重要視されています。
なぜそれが性被害・性加害に直結してしまうのか?
一見すると「性」とは関係なさそうに見える認知機能の課題ですが、実は人間関係の距離感やリスク判断に直結しているため、性トラブルの大きなリスク因子となります。
「特性にまだ気づいていない保護者の方」も「すでに特性を把握している保護者の方」も、以下のようなメカニズムを知っておくことが防犯・予防の第一歩になります。
【1.性被害につながるリスク(「守る」視点)】
・「嫌」の感覚やSOSの出し方が分からない 相手から不適切な触られ方をしても、それが「境界線(プライベートゾーン)を越えられた侵害行動」だと正しく認識できません。違和感を持っても言葉にできず、嫌と言えないまま被害がエスカレートしてしまうことがあります。
・言葉を真に受けてしまい、騙されやすい 相手の嘘や意図(「秘密のゲームをしよう」「これをくれたら優しくしてあげる」など)の裏を読むことが苦手なため、悪意のある大人や同年代からの誘いに簡単に応じてしまうリスクがあります。
・「ノー」と言ったら関係が壊れると思い込む コミュニケーションの不安から「相手に嫌われたくない」「友達でいたい」という気持ちが強く働き、嫌な要求でも断れなくなってしまいます。
【2. 性加害につながるリスク(「教える」視点)】
・相手の表情や嫌がるシグナルが読めない 相手の「困った顔」や「引きつった笑顔」を「喜んでいる」「不快に思っていない」と誤解(認知の歪み)してしまうことがあります。「やめて」と言われない限り、相手が嫌がっていることに気づけません。
・距離感(パーソナルスペース)の認識が不十分 「人と人との適切な距離」を直感的に掴むのが苦手なため、悪気のないまま距離が近すぎたり、相手の体に不用意に触れてしまったりして、加害と捉えられてしまうケースがあります。

・衝動性のブレーキが利きにくい 「見たい」「触りたい」「知りたい」という好奇心や欲求が湧いたとき、その場の状況や相手の気持ちを推し量る前に行動に移してしまい、不適切な行動(のぞき、触る、撮影するなど)につながってしまうことがあります。
<ポイント:悪気がないからこそ周囲の正しいアプローチが必要> ここで大切なのは、子どもたちに「誰かを傷つけよう」「悪いことをしよう」という意図がないケースが多いということです。知識の不足や情報処理の偏りによってトラブルに巻き込まれたり、意図せず加害者という立場に置かれてしまったりします。だからこそ、単に「ダメでしょ!」と叱るのではなく、「どこまでがセーフで、どこからがアウトか」を具体的かつ視覚的に教えてあげるアプローチが不可欠です。
具体的に親や支援者はどう教え、どう守ればいいのか?
認知機能の課題や発達特性のある子どもに対しては、一般的な言葉だけの注意(「気をつけて」「ちゃんとして」など)は届きにくいのが現状です。子どもたちを守り、未然に防ぐためには、直感的で視覚的・具体的なアプローチが効果的です。
【1.「守る」ための実践アプローチ(性被害の予防)】

・プライベートゾーンを「絵や写真」で可視化する
「水着で隠れる場所(口と、下着で隠れる部分)」は自分だけの特別な場所であり、「他人に見せない・触らせない・他人のものも見ない・触らない」というルールをイラスト付きで明確に伝えます。
・「嫌」以外のSOS(逃げる・距離をとる)を練習しておく 「嫌です!」と言えなくても構いません。「不快に感じたらその場を離れて大人に知らせる」という具体的な行動手順(逃げて大人に言う)をロールプレイ(予行演習)で体に覚えさせます。
・「内緒ね」はすべて大人に相談していいと伝える 悪意のある人は「ふたりだけの秘密だよ」と口止めをします。「『内緒にしてね』と言われたことは、お父さんやお母さん、先生に話して大丈夫なんだよ」とあらかじめ約束しておきます。

【2. 「教える」ための実践アプローチ(性加害の予防)】
・パーソナルスペースを「具体的な距離」で示す 「近すぎるよ」ではなく、「手を伸ばして届かない距離(フラフープ1個分)あけようね」など、目で見える基準を作ります。
・「同意(コンセント)」のルールを簡潔にルール化する 「相手が嫌がっていなければOK」ではなく、「相手が『いいよ』と言っていないことはすべてNG」という分かりやすい判断基準を教えます。
・OK・NGの事例を「具体例」でリスト化する 「友達の体に触る」「服を引っ張る」「勝手に写真を撮る」など、具体的にどんな行動がアウトなのかを日常の会話の中で一つひとつ確認しておきます。
一人で抱え込まず、周囲のサポートを活用しよう
発達特性や認知の課題に起因する性のトラブルは、決して「子どもの性格が悪いから」でも「親のしつけ不足だから」でもありません。 脳の情報処理の仕方に合わせた「伝え方の工夫」と、周囲の大人の「見守り」があれば、リスクを大幅に減らすことができます。
もし、「うちの子、もしかして……」と不安を感じたり、教え方に悩んだりしたときは、家庭だけで抱え込まずに、学校の相談窓口や発達障害支援センター、専門の支援機関などをぜひ頼ってください。 子どもたちの「分からない」「うまくいかない」に寄り添い、適切なアプローチを届けること。それが、子どもたちの未来と権利を守る大きな一歩となります。
■ 性教育は「自分を守るための教育」
性教育と聞くと、少し身構えてしまう方もいるかもしれません。しかし本来、性教育とは単なる「性の話」ではなく、「自分の体と心を大切にし、守るための教育」です。
親子間で、お子様の小さな変化(表情が暗くなった、体調不良を訴えるようになった、スマホを異常に隠すようになったなど)に気づいてあげられるよう、普段から温かく見守ることが何より大切です。
子どもが安心して「助けて」とSOSを出せる家庭、そして環境であること。それこそが、性暴力から子どもを守る、最も強固な予防策になります。
【事業者様へ:子どもたちを預かる現場の安心を守るために】

「こども性暴力防止法(日本版DBS)」の施行に伴い、子どもたちの安全を守る環境づくりは、ご家庭だけでなく、学校や学習塾、保育施設などの「子どもを預かる事業者様」にとっても法的・社会的な義務となります。
しかし、「実際に現場でトラブルや懸念が生じたとき、どのように初期対応すべきか分からない」「子どもや保護者からのデリケートな相談に、客観的かつ適切に対応できるか不安」という課題を抱えている事業者様も多いのではないでしょうか。
<日本公益通報サービスが提供する「こども性暴力防止法への対応支援」> 日本公益通報サービス株式会社では、企業危機管理や働きやすい職場づくりの一環として、子どもを対象とした性暴力防止対策の外部相談窓口・対応支援サービスを提供しております。 事業者様の体制やニーズに合わせて、最適なプランをお選びいただけます。
・【Aプラン】コンサル対応型相談窓口(初期費用無料) 外部窓口としての受付(電話・メール)に加え、通報や相談があった際の初期対応、その後の対応アドバイスなど、コンサルティングまでを包括した標準プランです。
・【Bプラン】通報内容ヒアリング調査パッケージ(初期費用無料) Aプランの窓口受付・コンサル対応に加え、専門知識を持った当社スタッフが通報者や関係者へのヒアリング調査までをパッケージで行うフルサポートプランです。
<外部窓口を設置するメリット> 学内や社内の人間には打ち明けにくいデリケートな問題も、独立した第三者機関である外部窓口があることで、早期発見・早期解決へと繋がります。また、専門家によるバックアップ(弁護士見解の確認や現場対応アドバイスなど)があることで、組織としての二次被害や対応の遅れを防ぎ、子どもたちと組織の双方を守ることができます。
「どこから対策を始めればいいか分からない」「法改正に合わせた体制を整えたい」とお考えの事業者様は、ぜひお気軽に当社までご相談・資料請求をしてください。子どもたちが安心して過ごせる未来を、一緒に作っていきましょう。