現代のビジネス環境の中で企業は日々多くのリスクに直面しています。これらのリスクの中には法令違反、コンプライアンス違反、情報漏洩、反社会的勢力との関わりなどが挙げられ、現実化した場合、企業にとって甚大な損害となります。
その中でも最近特に注目されているのが、企業内の内部不正やハラスメントなどの違法行為に対して適切な対応ができているかどうかです。これを防ぐための手段として「公益通報(内部通報)」が重要視されています。
企業危機管理とリスク管理の違いとは
企業危機管理とは、「問題が発生した後の危機対応」について事前に計画を立てておき、万が一問題が発生した後に、速やかに計画を実行していきます。
企業リスク管理では、「想定されている危機を防止する」に重点を置いており、可能性があるリスクに対して予防策を講じておくことを指します。
特に企業は、不正の早期発見と対策がカギとなります。危機管理、リスク管理の基本的なプロセスはリスクの予測、予防策、発生時の対処法、そして発生後の復旧が含まれます。
企業内には様々な出世競争などの人間関係のトラブルや軋轢が存在します。組織である以上、上下関係や人事にも影響があることから、いろいろな種類の不祥事や不正の芽が潜んでいることを念頭に置く必要があります。事案発生の最初の段階で、自社社員による内部犯行や自社の業務プロセスが原因である可能性を排除してはいけません。
内部犯行や自社の業務工程が起因での企業不祥事などは、常に発生し得る前提に立つことが大事です。自社の社員が絡んだ犯罪だと予測したくない心理は理解できますが、「外部犯行」「外部要因に起因」のバイアスがかからないように、組織内にもしっかりと目を向けた調査、危機対応を行うことが重要です。
危機管理 緊急時対応の流れ

特に、リスクの早期発見と防止が最も重要です。企業内部で発生する不正行為や違法行為は、経営層に知られることなく進行することが多く、問題が大きくなって初めて表面化するケースが少なくありません。従って、社員が問題を早期に察知し、適切に通報する仕組みが必要となります。
(参考:株式会社エス・ピー・ネットワーク著 企業不祥事の緊急事態対応「超」実践ハンドブック)
対策本部に複数の幹部や機関が絡むと迅速性が阻害される恐れがあるため、運用に工夫が必要です。
公益通報制度の役割
公益通報制度は企業内部の不正や違法行為を内部の関係者が通報することで企業が早期に問題を把握し、適切な対応を取ることを推進する仕組みです。公益通報者は企業内部で発生している法令違反やコンプライアンス違反などの問題を匿名又は実名で通報します。これにより、企業は問題を初期段階で把握し、迅速に対応することができます。
公益通報制度が適切に機能することで、以下のような効果が期待できます。
●不正行為の抑制
通報制度が存在することで、不正行為を働こうとするものに対する抑止力が働きます。従業員は不正が内部で発覚する可能性が高いと感じるため、法令違反や倫理的に問題のある行為を行うリスクが減少します。
●企業の信頼向上
不正や違法行為が社外に発覚する前に通報があり、早期に対応することで、企業の社会的信頼が保たれます。これによりステークホルダー(顧客、投資家、取引先など)からの信頼も向上します。
●従業員の安心
通報制度を整備し、従業員が安全に通報できる環境を整えることで企業内の透明性が高まり、健全な企業文化が保たれます。
公益通報者の保護
公益通報者制度を効率的に運用するには、通報者の保護が不可欠です。通報者が報復や不利益を受けることなく安心して通報できる環境が無ければ制度は形だけになってしまいます。
日本では「公益通報者保護法」に基づき、公益通報者が不利益を受けないように保護されています。この法律は、公益通報者が内部の不正や違法行為を通報した場合に解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いから保護することを目的としています。また、匿名での通報を受付ける企業も増えており通報者が特定されないように配慮されるケースも多くなっています

公益通報の課題
公益通報制度は多くの企業で導入されていますが、まだ課題も存在します。特に以下の点が指摘されています。
●通報者への不利益な扱い
法律によって通報者は保護されていますが、実際には通報後に嫌がらせや職場での孤立などの形で不利益を被るケースが後を絶ちません。こうした問題を解決するためには、企業が公益通報者保護法の徹底を図り、通報後もフォローアップを行う必要があります。
●通報後の確実な調査
通報制度が形だけのもので、実際には問題が適切に処理されず有耶無耶にされるケースがあります。それが繰り返されると、通報しても無駄だと社内通報が行われなくなり、不正行為が見過ごされるリスクが高まります。制度の信頼性を高めるには、通報された問題に対して、迅速かつ透明性のある対応が求められます。
●匿名性の確保
通報者が匿名で通報できる環境は重要ですが、匿名通報が乱用されることもあり得ます。根拠のない誹謗中傷や、虚偽の通報がなされることで、企業内の混乱を招くケースがあります。こうしたリスクを避けるためには、通報内容の精査と通報後の調査の透明性を保つことが重要です。
危機管理、リスク管理と公益通報の連携
公益通報制度は危機管理、リスク管理の一環としてとらえることができます。特に企業が不正や法令違反を早期発見し、問題が大きくなる前に対処するための有力なツールです。企業は公益通報制度を活用することで、内部の問題を自ら発見、修正し、外部からの指摘やメディア報道にreputational damage(評判が落ちてしまう状況)を未然に防ぐことができます。
公益通報が効果的に機能するためには、危機管理体制との綿密な連携が必要です。企業は通報された内容に対して適切な調査を行い、問題の真偽を確認するだけでなく、その後の対応策まで迅速に講じる体制を整備する必要があります。また、通報後の事後対応として、企業内の規則や体制の改善が求められる場合も少なくありません。
まとめ
企業における危機管理は、企業の継続的な発展に不可欠な存在です。そして、公益通報制度は内部不正や違法行為を早期に発見し、適切に対処するための強力なツールとして位置づけられています。企業は通報者を保護しつつ、制度を友好的に運用することで、内部統制の強化と信頼性の向上を図ることができます。
従業員が安心して通報できる環境を整備し、透明性の高い対応を行うことで、企業全体のリスクを軽減し、持続可能な経営を実現することが可能です。企業が公益通報を重要視することで社会からの信頼を維持し、健全な企業文化を育むことができるでしょう。