近年、小売り・サービス業界を中心に顧客からの理不尽な要求やクレームが深刻化しています。東京都は、2024年に開会した都議定例会でカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止条例を制定する方針を表明しました。カスハラに特化した条例は、全国で初めてのことです。
カスハラとは? クレームとの違いは?
クレームとは、商品やシステムに対して、品質の改善を目的として訴えることにあります。接客においても、より良いサービス向上のために改善を求めるものです。一方カスハラは、顧客による著しい迷惑行為のことを示します。過剰な要求、不当な言いがかりをつけることで自身の欲求を満たそうとする傾向があります。
2020年10月、厚生労働省では職場でのハラスメントに関する実態調査を行いました。そのなかで、カスタマーハラスメントの発生実態についても確認しています。調査によると、過去3年間に相談があったカスハラの割合は19.5%と、パワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)に次いで高いことがわかりました。受けた行為の内容としては「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」(52.0%)、「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」(46.9%)などがあげられています。
また、インターネットによって行われた民間調査によると、カスハラを起こす年齢層は50代が40.6%と最も大きな割合を占めています。
カスハラが社会問題となった背景とは?
本来、サービスを提供する側と受ける側は対等な関係です。顧客は代金を支払い、その対価としてサービスを利用できるのです。
しかし、1960年代に入り「お客様は神様」という言葉が正しく理解されずに広まり、お金を支払う側が優越的な立場として認識されるようになりました。カスハラを起こす年齢層が高い理由のひとつはこのためです。さらに、日本独自の概念である「おもてなしの心」も過剰なサービスの競争となり、カスハラに繋がりました。
カスハラの具体例とその影響
SNSの普及も、カスハラを加速させました。顧客が自分の権利を勘違いし、クレーム対応中の様子をアップするなどモラルの低下が指摘されています。安易な投稿は、個人情報の流出に繋がりかねないという認識も必要です。
・顧客が従業員に土下座を強要
ある衣料品店で、顧客が従業員に土下座を要求し、その様子をSNSに公開するという事態が発生しました。この画像は、社会に大きな衝撃と影響を与えました。
購入した商品に問題があったと詰め寄った顧客に対し、店舗側は返品を受け付け、謝罪しています。しかし、怒りが収まらない顧客は、土下座の様子をコメントと共にSNSに投稿しました。従業員が被害届を出したことにより顧客は逮捕され、名誉毀損罪の略式起訴で罰金30万円の支払いを命じられています。

・大手回転すしチェーン店での迷惑行為
外食産業においての不適切な行為が、社会の大きな問題となっています。
回転すし店で、若者による「寿司テロ」と呼ばれる迷惑行為が発生しました。醬油差しに口を付けるなどの迷惑行為は、撮影した友人同士のSNSで共有され、瞬く間に拡散されました。この騒動によりチェーン店全体の株価が急落し、売上が減少したとして、若者には約6,700万円の損害賠償が請求されています。(後に和解)
相手が未成年であったこともあり企業側の対応にも賛否両論ありましたが、カスハラに対する一石を投じることになりました。
SNSは絶大な影響力を持ちます!企業は、SNS上の被害を想定して対策を講じる必要もあるね!
なぜカスハラ対策が早急に必要?
カスハラの一番の問題点は、対応にあたった従業員のメンタルへの影響です。顧客からの理不尽なクレームにより精神的苦痛を受け、うつ病などの深刻な状態に発展する可能性があります。休職や退職に追い込まれるケースもあり、従業員に対する企業の責任が問われることになりかねません。
企業としても、多くの時間をクレーム対応に費やすため生産性の低下を招きます。カスハラ対策のマニュアルを作成・周知徹底し、万が一に備えて警察への通報を想定しておくこともリスクを回避する手立てとなります。

外部委託の内部相談窓口(内部通報窓口)設置のすすめ
厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」において、事業主が取り組むべき指針を定めています。
それによると、従業員がカスハラの被害を受けた場合に備え、相談窓口などの体制を整備し広く周知することを求めています。さらに、相談対応者は相談者の心身の状況にも配慮しながら慎重にすすめることとし、場合によっては弁護士との連携が即座に取れるシステムの構築も必要とのことです。
相談窓口が有効に機能することにより、従業員の精神面での不調が早期に発見できます。
外部委託の内部相談窓口(内部通報窓口)なら、メンタルヘルスに向けた取り組みも進んでいます。ハラスメントや人間関係の問題を十分に理解しているため、広く相談に応じることが可能です。心身のトラブルを深刻化させないよう、事実関係の整理をしながらヒアリングを行います。弁護士への橋渡しもスムーズに行え、カウンセラーなどの有資格者が適切な対応にあたることも可能です。
まとめ
企業においては、過度のクレームを繰り返すカスハラが深刻化し、対策を講じる必要性を迫られています。今回の防止条例が制定されると、トラブルをあらかじめ防ぐ有効な手段のひとつとなります。
カスハラは職場であればパワハラにあたる悪質な行為です。自分が常に正しいと思いがちな傾向にある人ほど、自分を振り返る必要があるでしょう。企業としても一貫性のある態度で臨むことが、カスハラを未然に防ぎ従業員を守ることに繋がります。
カスハラの定義は、業種やそれぞれの企業により基準が異なるため線引きが困難な場合があります。しかし、正当な理由なく従業員の就業環境が害されるようであればカスハラに該当すると判断されます!